The Nightingale and the Rose(15)

「愛なんて、論理学の半分も役に立ちやしない。愛は何も証明しないからなのさ。起こりもしないことが今にも起きるとばかり言い、嘘をホントと信じこませる。ハッキリさせておこう、愛は非実用的なのだ。実用的であることが全て、というこのご時世さ、僕は学問の世界に戻るよ。形而上学の世界にね」

学生は自室に戻るや、埃ほこりをかぶった分厚い書物を書棚からひきだすと、猛然と読み始めました

Metaphysics. ここにはむろん皮肉がある。愛は非実用的だと言う青年が、非実用的の代名詞ともいうべき「形而上学」の世界に戻るというのだから。しかし人生はそもそも皮肉なものなので、実用一点張りで生きてきても、人生でさいごの救いとなるものは、非実用的とされる、愛や文学、美術、工藝という「ゆめ」の世界なのである。(すくなくとも私にはそうである)

『無憂の王子、その他四篇』は1888年(明治21年)に初版が出た、ワイルドの童話集。3年後に出た『ざくろの家』は文体が凝りに凝っており、こどもが通読するには無理があろうと当時批判されている。前者のほうが後者と比較するに平易で、しかも美しい。The Happy Princeが第一話で第二話がこの「ナイチンゲールと薔薇」。第三話がかのゆうめいなThe Selfish Giant. 第四話と第五話はおとなが読むに大層面白いという意味で、ツマリ、こどもには少々毒があり過ぎるせいか、2013年にダブリンにあるオブライエン出版社から出た、チャールズ・ロビンソンの原画に色彩をつけたこのヴァージョンでは、カットされ、前半の第三話までがおさめられている。当時、ワイルドの友人でもあった著名な舞台女優は、この「ナイチンゲールと薔薇」がいちばん好きだとワイルドに手紙を書いており、私も同感である。ただ、この一篇は、ナイチンゲールにかんする「文化的前提」があり、理解と翻訳のうえで、すこし難しいところがあると思うが、美しい一篇であることに変りはない。注釈が必要なので、これまでの回に適宜付加した(3月16日~21日)

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