The Happy Prince(4)

「オイオイ、どうかしちゃったんじゃないのか、といいたくなるようなご執着ぶりじゃないか」。なかまのツバメが囃はやします

「ばかだなあ、葦よしっ娘は貧乏で、そのうえ、身内とあらば多すぎるほど、いる身なんだぜ」。なるほど、川辺には山ほど葦よしくさがしげっています。秋がきたので、なかまのツバメはぜんぶ姿を消してしまいました

なかまがいなくなると、さびしくなったツバメは、最愛の人にも飽きを感じ始めました。「だって、会話してくれないんだもん」

 

「彼女は、浮気女じゃないかと心配になる。秋風といっつもいちゃついてやがるからなあ」。ツバメの心配を裏付けるように、秋風が吹くとき、葦子よしこはいかにも優美なお辞儀を、秋風にして見せるのです

「彼女はいかにも地にどっしり足が着いている。しかし、この僕ときたら、僕は旅が好きなんだ! ぼくの妻ならばだ、夫の好みに従い必然的に、旅を好きでないといけないのは、理の当然だろう?」

「ぼくについてくる気はあるの?」。とうとう、ツバメは、葦子よしこに告げました。葦子よしこは首を横にふるばかり。だって、大地に足が着いて離れないのですから。「ぼくをからかっていたんだな」。ツバメは泣きました。「それじゃあ、ピラミッドに向けて出発だ! さよなら!」 ツバメは葦子よしこに別れを告げました

むすこ「この部分にはシャレがありますよね」

小医「お。わかるかい?」

む「attachmentですよね。くっつく、というところから愛情。しかし葦子よしこは大地にくっついている(attached)。あまりに家庭的domesticで一所専住の葦子よしことは対照的に、なにものにもしばられず、フラフラ外国へでもすきなところへ自由にでかける一所不在の旅を愛するツバメとは所詮、水と油で愛し合い続けることは無理。ふたりが愛し続けるためには葦子よしこは、detachedしなければならん。しかし、これは矛盾だ。ツバメは葦子よしこに悪態をついてるけど、ホントはツバメが悪いんじゃないの?」

父「いかにも、その通り。実際、ワイルドは、そんな人を奥さんにしてしまって、人生の大失敗に到っている。奥さんが悪い人というわけでは全然なく、ワイルドの無思慮が、あとで自らの没落にはねかえってくる。ワイルドのその後の実人生をも暗示する箇所で、興味が尽きないところだよ」

む「シャレといえば、日本語にも、お父さん、工夫をしましたね」

父「そうさ。attachmentのシャレがわかれば、ご執着と訳す以外にないだろうが、日本語の他の訳者ときたら…。あと、秋と飽き、くらいはね、日本語の術わざとしては、女ごころと秋の空を含めて、当然だろう。しかし馬鹿者どもは、「秋風」とせず、単に逐語訳で「風」で済ませて平気の平左なのさ」

む「ぼくは葦子よしこが気に入ってます」

父「そこかよ」

む「しかしお父さんが言うように、ここが愛にかんする重要な部分ならば、さいごのhe cried、これはやはり泣かないとね」

父「さすが、息子。わかってくれるとは、泣かせるねえ。しかし他の日本語訳者は「大声を出した」とか訳しているぜ。無粋だねえ…。ほんとうにこれで英語を読んでいるといえるのかねえ。日本語がわからない人に英語は読めません」

む「アハハ!」

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