The Happy Prince(12)

人びとは、寄ると触ると、その新聞記事を話題にしました。鳥類学者にしかわからない、ちんぷんかんぷんの単語ばかり、記事には並んでいたというのにね。「今夜、ぼくは埃及エジプトに飛び立つ」。そう思うだけで、胸の高鳴りをおぼえるツバメなのでした。おわかれに、都まちの公共記念碑をすべて訪ね、教会の尖塔せんとうの先に長いこと、とまったまま、時間を過ごしました

ツバメが行く先はどこもスズメが、チュンチュン、仲間うちでささやいております。「大した旅のお客人だそうだ!」 それを聞いて、ツバメも悪い気はしないのでした

月が昇りツバメは王子のもとへ参ります。「エジプトに言伝ことづてなどございましょうか? あればお伺いしますが」。ツバメは声を張り上げました。「今夜エジプトへ参ります」。王子の返事はこうでした。「ツバメよツバメ、ちいさき僕しも。いま一夜ひとよ、私のもとにとどまる暇いとまはなきや」

「僕には埃及エジプトで待っている友があるのです」とツバメ。「あす仲間たちは第二瀑布ばくふまで飛ぶというんです。そこじゃあ、カバの連中がパピルスの茂みのなかでじつにのんびりしているんです。花崗岩でできた玉座にはメムノンの巨神が鎮座ましましてね。巨神は一晩中天空をご覧あそばして、暁あかつきの星がひかるとき、よろこびの雄たけびを上げなさいます。あとは沈黙がひろがるのみ。正午になりますとね、黄色ライオンの連中が…」

無内容で空疎なことをわざわざ難解な言葉にして話す似非えせインテリをもてはやす大衆の愚劣を嗤わらうワイルド。このおろかしさは、時代を超えて、国を超えて、まったく変りませんね…

尖塔の先に長いこと、とまっているツバメの姿に、ツバメの孤独を感じます

日本ではなぜかswallowはプロ野球チームもあるからか、比較的ポピュラーなのに、スズメsparrowのほうは知らぬ人の多い片寄りがあると思います。むろん、ここのスズメは、大衆の比喩でしょう

distinguishedを「偉そうに」と誤訳している訳者がひとりありましたが、distinguishedにネガティブな意味合いはおそらくないと思います。たぶん、文脈じたい、正確に理解していないので誤訳しているのでしょう。問題はstrangerをどうとらえるかで、ツバメは渡り鳥→旅人、しかしてこのツバメは、季節外れにここに滞在している客人guestと考えると、それがstranger(異郷のひと)の「なかみ」ということになります。ここがわからないので「立派なことをした」とごまかしている訳者もいます

The Second Cataract. ナイル川にはたしか6つ瀑布ばくふ(Cataract; Great fall)があるそうです。アフリカの奥地の水源から6カ所、滝でダンダンダンと流れ落ちてきたのち、段差のない流れでナイルが悠然と続きだすとそこが上エジプト。したがって、上エジプト以南の地はヌビアといって、「文明」の及ばぬ地。歴代のファラオは、そこを植民地として支配し、黄金やら奴隷兵士やらを巻き上げて富国強兵の基礎を築いた由。ここに出てくる「第二瀑布」ですが、アスワンハイダムの建設により今はないと聞いています。なお、cataractとは、いまや医学用語として使われることのほうが一般でしょう。「白内障」のことです。メムノンの巨像は、第二瀑布よりかなり北、テーベ(ルクソール)の都にあるので、地理的には合わない。メムノンの巨像は、新王国時代第18王朝アメンホテップ3世を象ったもので、紀元前27年地震が起きて、像にひびが入ると暁に奇声を発したことは事実らしい。紀元後3世紀に修復されて以後、音を発することはなくなったと

 

 

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