古来、美しい挿画でゆうめいな絵本は、なんといっても、イソップ。
日本の歴史上、初めて舶来された「西欧文学」が、イソップの寓話集。
西欧の歴史をかんがえる上でも、イソップの寓話集には、深い注意と敬意が払われてよいはずですが、なぜか軽視されています。日本語の研究文献は数えるほどしかありません。
storkは、コウノトリということですが、そう訳すのはいかがなものでしょう。歴史と風土をふまえ、鶴と訳します。英文でもstorkではなく、craneとなっているものもあるようです。原文を日本語に直訳すると「きつねとつる」となりますが、江戸時代前期に成立した『伊曽保物語』では「鶴と狐との事」となっています。日本語の語順としてはどちらでも良さそうですが、英文ではThe Fox and the Stork/Craneで、この語順は動かないでしょう。全訳してみます。
つるときつね
きつねがつるを夕飯に招待しました。つるにいけずをしようと思って、きつねは平たい皿にスープをそそぎました。きつねが苦も無くスープを平らげたのはもちろんですが、つるは口端が長いものですからスープ一滴まんぞくに飲めないので、かわいそうに、きつねの家に到着したときのまま、お腹が空いてたまりません。つるが残した皿をみて、きつねは心配を装いました。「もしやお口にあいませんでしたでしょうか?」 つるは返辞をするかわりに、おもてなしをありがとう、ついてはちかぢか夕飯のお返しがしたいと、きつねに申し出ました。つるの家に招待をうけたきつねが席につき、運ばれてくる食事はどんなにか旨かろうと舌をなめ回していますと、ごちそうは、口が狭くくびの長い筒状の水指に入れて出されたものですから、おそれいりました。つるはやすやすとごくごくスープを飲めますが、きつねは水指のくびにもれて滴るスープをぺろりとするだけでがまんするよりほかありません。腹をすかせたまま帰宅したきつねは、ひとこと、「つるのしかえしときたら、おみごと、ぐうの音も出なかったよ」。
教訓 己の欲せざる所、人に施すこと勿れ
さいごの教訓は、直訳すれば「(人から)してもらいたいと思うことを(人には)なさい」ですが、ほぼ同意を取って、『論語』を引いてみました。
小医のすきなイソップのひとつですが、この話に出てくる2種類の食器のイメージを、最近患者さんによく話しているので、紹介してみました。どんな話をしているのかについてはまた別の機会に書いてみます。
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