世のなかは、今はかうと見えて候

俳諧つて、なんか辛気臭しんきくさい文藝つて感じが否めないのね。

それは子規とか虚子が、写生、写生つていひだしたからさうなんで、だけど、写生(リアリズム)を突き抜けたところに、詩情がなければ、素人句なんて読めたもんぢやない。

たつた十七文字の「詩」だから、良し悪しがスッとわからないこともおほい。ある人は絶讃しても、乃公わしにはトンと分らぬといふ人もある。これがあるから、俳句はすね者、偏くつ者がする趣味となるのだらう。

岸本尚毅氏は、小医と同じく東大法学部卒。ごく幼少のころから俳句をはじめたらしく、温和な顔付が印象的な方だが、この『名句十二カ月』に選句された俳句で、小医の気を引いたものは数へるほどもなかつた。だからブックオフに売渡してもいゝのだが、それがどうしてもできない理由がひとつあり、それは破格の名句が、選句されてゐるからなのである。

海中わだなかに都ありとぞ鯖火さばびもゆ  松本たかし

詩情たつぷり、こゝろの震へるやうな、時によつてはなみだをこらへきれなくなるやうな名句である。漱石や、龍之介、荷風のごときには、到底詠めさうにない、松本たかしの藝術的感性松本たかしはお能の名家の御曹司だつたが、結核のため、後継できなかつたが漲みなぎつてゐる。ある二選者は、この句をえらびつゝ、その意が全くわかつてをらないやうで失笑させられた。岸本先生はむろん教養ぶかく、正確にこの句の「詩情」、おくぶかさを把握してゐる。

みなさん、この詩の奥にあるもの、わかりますか? エッセイのタイトルにヒントを出してあるのですが、答合せは、次回に!

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