The Flower of This Week (6)

人類が花を最初に手向けたのは、死者にたいしてであつたと、中学校の歴史の教科書下欄の片隅に書いてあつたと記憶する。教師はそんな事実に授業の時間を割くことはなかつたが、わたしは今にいたるもおぼえてゐる。

古代歴史学は、人びとの埋葬された跡からいろいろな知見を豊富に得てゐるやうで、私ももつと学びたいが、いまはあんまり時間がとれない。取れたらそのうち本を読むだらう。

それよりも、死者に花をたむけた当時の人びとのおもひはどうだつたのであらうか? 「あの世」での「たましひの平穏無事」をねがつてであらうか。古代エジプト人は魂の永世をほんたうに信じてゐたやうだから(王族貴人だけでなく庶民でさへ、ミイラを作つてゐたのである。ミイラづくり屋はさぞかし繁盛したことであらう)、「あの世」でもお花畑に囲まれた楽園で暮してゐますやうにと、たぶん願つたのだと思ふ。

東洋ではもちろん、花は御仏みほとけに供へるものだつた。室町時代、京都には大塔が相国寺内に聳そびえたつてをり、これはもちろん時の大権力者、足利義満が建立したのだが、しよつちゆう大法会を催しては、そこのてつぺんから、花吹雪を(もちろん、生花ではなく紙でつくつた仏花だが)まきちらしたといふ。あんまり派手なことをした罰があたつたのか、大塔はその後、落雷を受けて焼失してしまつた。

うそか誠か、欧州フランスでは、男から女に、夫から妻に、花をときどき贈るといふ風習があるといふ(花屋は繁盛していゝ)が、女どもは男たちから花を贈つてもらつて、うはべは「うれしい」と口にするが、ほんたうにうれしいのかどうか、私はすこし疑念をもつてゐる。

私は小さい頃、昆虫少年であつたし、小動物少年であつたから、植物図鑑などには見向きもしなかつた。それよりは恐竜図鑑をながめて空想をたくましくしてゐた。宇宙図鑑はだめだつた。ロケットがいけないのである。親父はカメラに入れあげていたが、わたしは機械といふものが大きらいであつた。だいたい、火星や木星、果ては土星に人類が出かけてどうする? わたしはとても現実的であつた。恐竜は死に絶えてしまつたが、その栄華の過去をなつかしむことができる。地中に骨が埋まつてゐる。時と場合によつては掘り起こすこともできる。それがいゝのである。私は幼少のころから未来志向ではなく、過去(追憶)志向の人間であつた。

そんなこどもが50歳を過ぎて、京都に開業したころから、路傍の花をふくめて、にんげんのをんなよりも、花に目が先に行くやうになつたのである。かはればかはるものである。これはどういふ変化なのだらうとは昔のブログにも書いた。原因はわからないが、要は「年を取つた」といふことなのだらう。わたくしの感情をゆりうごかすのは、どの花をみても、うつくしいからなのである。可憐なのである。邪気といふものがないのである。その点がくりかへすがわたくしの感情をいつもゆり動かすのである。而しかして、これと正反対の性質をもついきものこそが、人間の女であつてみれば、かのフランス人たちは、女どもの毒消しを定期的に図つてゐるのに相違ないのである。

人間の男たちは、一般に、女どもよりはロマンチストに製造されてゐるものであつて、どうか、おまへ、そなたに贈るこの花のごとく、つねにうつくしく、つねに可憐であって、これが一等大事なのだが、いつも無邪気でゐておくれ、といふ儚はかない望みをフランスの男たちは、フランスのをんなどもに託してゐるのではなからうか、さういふ「仮説」を私は、六角花市に通ふ道すがら、立てたのであつた。それをおもへば、あゝ、フランスの男たちはなんと健気けなげなのであらう。こんな私の変痴気論が正しいのかどうかはわからない。まじめ人間やウーマンリブに言はせれば、どうせ、まちがつてゐる。しかし、私には散歩とちゆうに、ひとり妄説を構築して、ニヤニヤできれば、それだけで用は足りるのである。

註)誤解する人があるといけないので、ひとこと付言するが、私は女性不信なのではない。女性に最大限の信仰を有するからこそ、かういふことを書いて儚い慰藉としてゐるのである。

関連記事

  1. 勉強とかいふもの(7) 高橋正治先生の学恩(3)

  2. Close Your Eyes

  3. オイラは宿無し!

  4. 宿題

  5. 気の毒な人

  6. 花畑 庭のはなし(2)

このサイトについて

京都市中京区蛸薬師 四条烏丸駅・烏丸御池駅近くにある心療内科・精神科クリニック「としかわ心の診療所」ウェブサイト。診療所のこと、心の病について、エッセイなど、思いのままに綴っております。
2026年1月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

カテゴリー