勉強とかいふもの(5) 高橋正治先生の学恩(1)

日本の「夏」といへば、ちかごろぢや、「暑いですな」「異常ですな」、こればかりをくりかへしてゐる馬鹿どもばかりになつてしまつてゐるが(昔はこんなに誰もかれもがテレビの天気予報の話なぞしなかつた)、「お盆」「帰省」「盆をどり」「線香花火」「蚊やり」「お盆過ぎの赤とんぼ」など情緒ぶかい「定番」にくわへて(「ゆかた」についてはあへて言及しない。…と思つたが、する。ゆかたといへば、それは麻で白にきまつてゐるものを、さいきんは赤やら黄色やら暑苦しい色と柄と木綿もめんのそれを着て「ゆかた」などと称するにいたつては、もうわたくしは死にたくなるのである。岩下志麻が若き日に出演した『古都』をごらんなさい。祇園祭の日の京都びとたちは、みな揃つて白のゆかたを着てゐる。黒は玄人筋だけが着ていゝもので、それは肌の白さを誇示したのである。だから、色の黒い女が黒のゆかたなど着た日には死刑ものであるし、芸妓ふぜいの退嬰的誇示など、鼻にもかけぬがいゝ)、非常に暑苦しい「定番」があつて、それが「夏を制する者が、受験を制す」といふ大学受験予備校のキャッチフレーズであつた。

わたくしは、仮にも「学校」などといふところへ行つて殊更にまなんだことなど、ひとつもありはしない。といふのはさすがに言ひ過ぎで、きはめてまれな例外をこゝに話さうと思ふのである。そのまへにほんたうにつまらない学校といふものへのわるぐちを散々話しておかうと思ふが、まづ屈指すべきは、小・中、高校にさへ配置されてゐた、体育教師の一群である。こいつらは、学識といふものがこれつぽつちもない代りに、野蛮性と暴力性だけは存分に発揮してゐた。親からのクレームがうるさい当世にあつてはさすがにヘイコラして小さくなつてゐるのであらうが、学校から今すぐにでも追放していゝ連中である。私のむすこなどは、小学校にはいつたとき、「学校は勉強をするところなのに、勉強をおしへてくれないから、退学したい」となみだながらにまじめに主張したので、恐れ入つたことがある。体育教師は「勉強」にふさわしい存在といへるか? だれも言へないだらう? かれらは解雇されるべきである。

他の「勉強」のなまへに値する教科についても、事情はおなじで、たいがいの教師は、私の目からは、まなぶに値しなかつた。高校卒業後、京大法学部の受験にしくじり、ともだちも行くからとなんとなく駿台予備校に行つたのがいけなかつた。当時、英語は表おもて三郎といふ、東北大学経済学部助教授のポストを蹴つて予備校教師をしてゐるマルクス主義者が、絶大な支持を受験生たちから受けてゐたが、英文を読むためには「構文」をみぬく必要があるといふあたりまへのことを言つてゐたに過ぎない。アホか。ひとつひとつの単語がもつ複雑なニュアンスの話などは、彼から聞いたことがない。おそらく彼は英語をきちんとは読めてゐなかつたと私は断言できる。彼には共産主義やら資本主義批判やらの世界理解はあつても、人間を中心とする文学、恋愛、生物学、医学のことなどは、からきしわからなかつたであらう。

おまへ、いつも偉さうなことばかり言つてゐるが、ちやんと英語のひとつも教へられるのかね? と言はれさうだが、答へておかう。教へられる。それはわが息子が証言してくれるだらうし、過去のブログ記事をさがし出して読んでくださればと思ふ。英語の実力といふものは(といつても、私は読むいつぽうで、書けも話せもしませんが)、とくだん英語の勉強をせずとも、国語力があがれば、それにともなつて(知らない内に)上がるので、なぜか齢をとればとるほど、英文を読むに、こゝのニュアンスはかうだなと勝手に自信をもつて読めちやうんですね。どうしてさうだとわかるんだらうと自分でも思ひます。このやうに「外国語(国語)」を読むとはどういふことか。そのことを、身を以て静かに教示してくださつた先生が私にはゐた。先生のことは、をりにふれ想ひ出して忘れることがない。(つゞく)

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