「くやしかったら、ここまでおいで」
こどもの時にした鬼ごっこの記憶がよみがえる響きがあります。
これを英語でいうと、Catch me if you can.
この映画は、展開のおもしろさだけで十分に引き込まれるので最初、なかなか気づかないのですが、何度も観ているうち、「父子の愛情の絆」がこの映画の底にあるテーマなのだなと気づきます。
冒頭ちかく、ディカプリオの父役クリストファー・ウォーケンが母役の女優とダンスを踊るシーンがあり、そこに流れる曲が、Embraceable you.
じつに優美な曲です。
ジャズ・ボーカルのスタンダードナンバーでもあります。
Embrace me.
「だきしめておくれ」
同じことなら、Hold me. でも良さそうですが、これでは散文的すぎるのかも知れません。
holdは英語ですが、embraceは元フランス語なので、こちらの響きのほうが文明の香が立って上等になるのでしょう。「あたへたまへ、きみが抱擁」。braはブラジャーではなく、フランス語で「腕 bras」の意味。ふるく画家の藤田嗣治が「腕(ブラ)一本」というエッセイを書いていることを知っている方はおられるでしょうか?
言葉の原義をたどれば、私に腕をのばしてくれ、ということになるのでしょう。em(n)は名詞を動詞化する接頭辞(例、enjoy)。
My sweet embraceable you.
「抱きしめたくなる、私の子猫ちゃん」
embraceに「可能」などを示唆する接尾辞-ableがついて、「だきしめたくなる」という意味になるのでしょう。
Embrace me, you irreplaceable you.
「他のひとでは満足できないのだよ」
直訳して「かけがえのない」とすると、意味は通りますが、平板で、色気のないこと、甚だし。
Just one look at you, My heart grew tipsy in me.
You and you alone brings out the Gipsy in me.
「一目見ただけで、うっとりしてしまう、あなただけが私のこころをほどいてくれるのだ」
I love all the many charms about you.
「あなたの放つその魅力そのすべてが好ましい」
charmとは、少し古風な響きがあるかも。しかしそれだけに優美です。『ローマの休日』でオードリーヘップバーンが各国の使節への謁見時に “Charmed.”という返辞をしています。
Above all I want my arms about you.
「私の欲しい物の第一は、あなたの体に回す腕」
ここで出てきたarmが先述したbrasのこと。この英語歌詞で私がつまづいたのは、ここのabout. 前段の詞に対応しているのは明らかなのですが、arms about youというのが聞きなれない感じです。arms around youだとわかりやすいですが、これでは色気がありません。aboutには「近づく」ニュアンスがあります。恋人の背中や腰回りをもとめて「まさぐる」ニュアンスでしょうか。なるほど、ほのめく色気があります。
Don’t be a naughty baby, Come to papa, come to papa do. My sweet embraceable you.
「おイタはだめだよ、さあ、パパのところへきて、私のいとしい人」
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