The Happy Prince(21)

「私の行き先は、埃及エジプトではありません」。ツバメが最期の言葉をつたえます。「私の行き先は、死の住まう家。死は、安らかなまどろみの、血をわけた只ひとりの兄と聞いています。そうですよね?」

ツバメは王子の唇に口づけをすると、その足元に落ちて死にました

ツバメの死んだ正にその刹那せつな、あたかも何か物が壊れたような、奇妙な胸騒ぎのする音が、彫像のなかに響いたことでした。鉛の心臓が真っぷたつに割れたのです。その夜は、じつに言い表しようのない位、霜の凍り付くひどい夜でございました

翌早朝、王子の見下ろす広場に、知事が都議会議員をぞろぞろひきつれて、姿をみせました。石柱の傍を過ぎるとき、空を見上げた知事は彫像の異変に気づいて言いました。「おやおや、無憂の王子がなんとまあ、みすぼらしいザマになっているではないか」

「じつにみすぼらしいザマだ」。都議会議員も口をそろえます。これらの人びとは、知事の幇間たいこもちです。近づいてきて、やはり知事と同じように彫像を見上げます

Death is the brother of Sleep. 漫然と「兄弟」と訳している人が多い中、「兄」とひとりに限定している訳者があって、これが正しい。「私にとって、死とは、安らぎの子守唄である」と名曲『レクイエム』を書いたガブリエル・フォーレの言葉も、関連して、思い出されます

 

関連記事

  1. The Happy Prince(22)

  2. The Happy Prince(6)

  3. The Nightingale and the Rose(15)

  4. アダム・スミスの言葉

  5. The Nightingale and the Rose(13)

  6. The Happy Prince(18)

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

このサイトについて

京都市中京区蛸薬師 四条烏丸駅・烏丸御池駅近くにある心療内科・精神科クリニック「としかわ心の診療所」ウェブサイト。診療所のこと、心の病について、エッセイなど、思いのままに綴っております。
2024年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

カテゴリー