勉強とかいふもの(6) 高橋正治先生の学恩(2)

私は高校時代、もともと医学部をめざしてゐて、理系にぞくしてゐた。高校での成績は、自慢することを赦ゆるしてもらへば、抜群の部類で、高2の4月で4位、高3の4月で2位であつた。しかし、医者になつて、日日、ぢいさんばあさん相手に過ごすのかと想像すると気がめいり、それよりはもつと広く世のため人のためになる仕事への展望を考へると法律家なんぞになるとよいのではないかとおもへば、数学の勉強も、果して、こんなものがなんの役に立つのかと、にはかに身が入らなくなってしまつたのであつた。その後私の成績は急落した。

それで受験まぢかになつて、京大法学部くらゐならよゆうで受かるだらうと受験してみたら、予想外に数学が難しくて落第してしまひ、駿台予備校の門に下つたのであつた。国語をろくに勉強してゐなかつたのも悪かつたので、現代文はZ会に3カ月も打込んだら、みるみる成績があがつて行つた。ちょろいもんである。現代国語は、頭をよくするとか、タレント予備校講師の林修先生はのたまつてゐるが、あんなの、でたらめである。私はじぶんの人生経験に誓つていふが、国語の授業で、現代文(特に、あたまのわるい日本人の評論家などの文章)などを読むのは時間のむだであるし、頭をよくしは決してしない。かへつて頭を回復不能なまでに損傷してしまふのである。そんなものを読む時間があるくらゐなら、旧約聖書、新約聖書、論語、モンテーニュの『エセー』、パスカルの『パンセ』、ラ・ロシュフーコーの箴言集、ニーチェ、アナトール・フランス、オスカー・ワイルド、芥川龍之介、鷗外・荷風・漱石なんぞを読むがいゝ。力強い滋味と毒をふくんで、精神的に頑強になること、請合ひである。また、散文がよいとも決してかぎらない。文学の華は「詩」にこそあるのであるから、詩をこそもつと読みたいものである。それには古典に限るから、国語の試験は古文、漢文でたくさんなのである。

民主主義に迎合するな! 

わたくしが民主主義をにくむ理由は、かず限り無く転がつてゐる。

私はもともと漢文は得意であつた。しかし古文がダメで、これはZ会で勉強してゐても、一向にパッとしなかつた。駿台予備校のふだんの授業でもダメだつた。どうしたものだらうと思つてゐたところに、夏季講習の時期となり、その名も「東大古文読解演習」といふ、おそらくたつた2日か3日だけの短期講座を講座リストの中からみつけたのであつた。講座の短期に合せて、前以て配布されたテキストもほんたうにうすつぺらく、こんなので、どれほどの実力がつくのだらうとふあんになるほどであつた。時は、40年前のちようど今頃、8月の末であつた。(つゞく)

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