病気の説明 16

病気の説明・各論13

パーキンソン病

パーキンソン病は、神経内科のコモン・ディジーズで、精神科では診ない。しかし神経内科外来は大きな総合病院にしかないし、大学病院や日赤の医師はいそがしいので、「あまり説明してくれない」という不満があるようだ。しかし、この訴えじたい、パーキンソン病の症状なのかもしれない。パーキンソン病の患者さんは、病気のことで頭がいっぱいで、こまかいことが気になり、なぐさめを求めて話がくどい傾向がある。不安や抑うつ気分、不眠を訴えることがすくなくない。それで安定剤や睡眠薬を出してほしいと弊院にいらっしゃるパーキンソン病の方が、わづかではあるが、増えてきている。「よく聞いていない」というので、小医がパーキンソン病の説明を、神経内科医に代わって、行っている。また上記の病状に対しては対症的な投薬でだいたい間に合っている。こんごも、こういう患者さんは、とぎれとぎれ弊院を訪れてくるだろうと思って、便宜のために、ここにひととおりの説明を附しておこうと思った次第である。

有病率は、1000人に1人ほど。喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病は、パーキンソン病を「予防」するのだそうだが、他の病気になる可能性を「増やす」ので、聞いても余りうれしくない情報である。多くの病気の例にもれず、「体質」が重要なのだそうだ。身内にパーキンソン病の人がいると、発症率は2倍になるという。かの悪名たかきアドルフ・ヒトラー(1889-1945)が晩年本病に罹患していたことは有名だが、50代以降の発症がたいていである。症状を気にしだして、約1年を経たころに病院を受診することが多い。

パーキンソン病は、詮ずるに、「からだの動きが減じて固くなる」病気である。脳幹(延髄、橋、中脳、間脳)から大脳皮質にかけて上行性に神経核が変性(死滅)していくメカニズムが現在の通説とされる。病状を列挙する。

①手の動作緩慢。初発症状の20%を占める。一側(右または左)に始まり、他側におよぶ。或は、ふるまいにおいて、なにごともゆっくり、緩徐になる。或は無動。瞬きが乏しい。じっと見すえている。表情がすくなくなる(仮面様顔貌)。声がちいさくなる。流涎(よだれをこぼす)。書字がちいさくなる。

②下肢の歩行障害。初発症状の30%を占める。一側にはじまり、他側におよぶ。歩こうとして時間がかかり(すくみ足)、すり足、歩幅もみじかくなる。姿勢のたてなおしが困難になるため、ちょっとした外力で倒れやすくなる。姿勢は、前かがみや、腰折れ、「ピサの斜塔」のごとき体幹の右または左への傾きが出ることもある。歩行時上肢の腕振りがなくなる。

③安静時の震え。初発症状の50%を占める。一側の上肢に始まり、同側の下肢、他側の上肢、下肢へとおよびうる。或は一側の下肢に始まり、同側の上肢、他側の下肢、上肢へとおよびうる。

④手足の固縮。患者の手首、足首を医者が伸ばしたり屈曲させたりすると、医者が「ガクガク」とした抵抗を受ける。

⑤歩きながら考えるなど、ふたつの異なる動作を同時に行うことが難しくなる。

⑥便秘。腸管はたえずうねうね芋虫のように動いているが、その動きが悪くなるのである。イレウス(腸閉塞)も時に生じうる。

⑦嗅覚低下・味覚低下

⑧夜間の頻尿

⑨低血圧(<収縮期血圧100mmHg

⑩発汗発作。首から顔にかけて、玉のように汗をかく。

⑪疼痛。腰、下肢の痛みが多いが、からだのどの部位でも生じうる。

⑫レム睡眠行動異常。夢を見ているときに夢に合せて大声を出したり、手足を動かしてケガをしたり、家人にめいわくをかけてしまう。

⑬日中の過剰な眠気

⑭易疲労性

⑮不眠症。不安神経症。反応性抑うつ。

⑯幻視

⑰痴呆症(認知症)

参考文献

水野美邦『パーキンソン病の診かた、治療の進めかた』(中外医学社、2012年)

 

 

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