オイラは宿無し!

わたしは、だいたい、ドリフターズでさへ、知らなかつた子どもであつたし(テレビを見ないため)、そのうち、周囲の子どもたちに教へてもらつて、土曜日の8時だよ!全員集合のおもしろさがある程度わかつてからも、いかりや長介は、顔も声も野蛮でだいきらひであつたし、加藤茶はそのおちょくりがかへつて勘にさはり(「チョットだけよ」「アンタも好きねえ」とか)、仲本工事・高木ブーは愚鈍で論外、わたしがいちばん好きで最も笑へたのは、メンバーのくせにドリフターズがきらひできらひで辞めたくて仕方なく、全然やる気をしめさない、荒井注であつた、といふのは、子供ながらに渋ごのみであつたといへるだらう。荒井注の後任は、志村けんとかいふ、あかぬけない若者だつたが、私はこのゐなかものの志村が終生きらひで、ドリフターズとの縁はそれで切れた。

私は『太陽にほえろ!』とか、これも小学生にさへ人気絶頂を誇つた警察ドラマにも、まつたく関心をしめさず、醜く酒太りした石原裕次郎など、どこがいゝのだらう、これでも刑事かと怒りの念さへ覚えてゐた。裕次郎は若いときは、かわいゝ感じで好感がもてるが、それでもスターとして、どこがよかつたのか、いまだにわからない。誰か教へてくれ。たゞし、声だけはいゝ。それはほんたうである。酔はせる。

そんな偏屈小学生であつた私にも「変革」の波が押寄せる年があつて、それが1977年(昭和52年)、私が小学校5年生の時である。ラジオから、ある曲が秋ごろからすこしづつかゝり出し、曲のかかる頻度は、冬に向けて燎原の火のごとく、リクエストはがきの数は爆発的に増えていつた。しかし歌手の名前を紹介するラジオのアナウンサーには、明らかにとまどひがあり、それは歌手にかんする情報がすくないために、紹介しようにも紹介しようがなかつたためである。そのころテレビに出演しない歌手(「フォーク歌手」とかいふ名前で徒党を組んでゐた。ちゃちな「反体制」運動である)の曲がこれほどの大ヒットを示すことは前代未聞のことだつたのに、多くのおとなはこれに知らん顔しようとしてゐたのは、まちがひないと思つてゐる。曲のなまへは「わかれうた」であり、歌手は中島みゆき、いふのであつた。私はこの曲に惚れた。歌詞の内容はわかるやうでわからないものだつたが、すこし「狂」的要素(フェリーニの『道』的)のはいつた哀調が、子供心にも「狂」はせるものがあつた。そんな曲を、こんなにもきれいでこんなにも美しい若い女性が歌つてゐるなんてと、シングルアルバムのジャケットを店頭で見つけた時は、二重の衝撃を受けた。以後、中島みゆきは大学二年まで、聴き続けた。中島みゆきの名前が真のいみで、大衆にもひろまつたのは、それから約10年もの後、NHKの『プロジェクトX』のテーマ曲を通してであつた。しかし、前々から中島みゆきの声は「ひゞ割れ」出してをり、私が大学二年ごろを以て中島みゆきを聴くのをやめたのもそのせゐである。「地上の星」はいくら民衆にヒットしたとしても、私には鑑賞にたへられるものではなかつた。

子ども時代、アイドルとよばれる存在があつてもをかしくないのだが、以上のやうな次第で私にはないと思つてゐたら、「おれのことを忘れたのかい?」と街頭から声をかけてくる男の人がさいきん、ふいと現れたのであつた。さうだ。それが世良公則&ツイストである。当時、小学生の女の子たちはピンクレディーの振付あそびに夢中だつたが、男子は床掃除のモップを上下左右にふりまはすことに熱中してゐた。「あんたのバラード」「銃爪(ひきがね)「宿無し」とヒット曲を短い間に連発したが、私が最も好きだつたのは「宿無し」であつた。さいきんなんの気の回しか、大阪で選挙に立候補なさつてゐたが、あの当時、「迸る」汗をぬぐひもしてゐなかつたことは確かである。アイドルの最重要要件を満たしてゐた。とにかく「カッコよかった」のである。

しかし、私は、じぶんの人生をふりかへるに、なんにつけ、適宜の時に「卒業」をする時期をきめてゐるやうで、世良公則&ツイストが「燃えろ、いゝ女」を歌つたときには、その俗悪さに辟易し、「もう、終り」と、アッといふ間に「卒業」してしまつたのであつた。

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