病気の説明9
適応障害(自律神経失調症)
ごく簡単にいえば「職場ストレス」が高じてきた状態です。そういうときはたいてい下記にまとめてあるような自律神経失調症状が伴ってきますので、「自律神経失調症」と言うことも多ございます。
精神医学的には、心因反応のうち、職場ストレスを主因とする、心気反応(自律神経失調症)を「適応障害」と言っています。
あらゆる職場は、そこで働く労働者が、心身ともに健康に働ける人的・物的環境を提供する責務があります。職場(学生さんにあっては学校)は、じぶんの人生の大半の時間をそこですごす大切な場所なのですから、最大限、快適でうつくしく、楽しい場所であって然るべきですが、実際には、必ずしもそうでないのが、憂き世のつらさ。
いかにも環境ストレスが高そうだなと思える職場を、具体例から抽出して、以下に列挙してみましょう。
- ワンマン社長(怒りんぼ、金にがめつくうるさい、パワフルで暑苦しい、周囲はイエスマンばかり、情けある言葉ひとつかけてくれず冷酷)がいる中小企業。
- 「京のいけず」(理不尽なしごき、いじめ、従業員酷使)が脈々と受け継がれている閉鎖的な老舗店(実名はあえて伏す!)
- 神経質でなくては勤まらない「銀行」というところ(職場いじめ、厳しい営業ノルマ)
- 安楽なのは宿泊客だけ、「ホテル」というところ(ホテルごとに異なる企業文化、シフト勤務などの過労)
- おいしい思いをするのはお客だけ、「飲食店」というところ(厳しい修行、いじめ、過労)
- 保育園、幼稚園、小・中・高・大学(変人教師による職場いじめ、発達障害児教育のストレス、保護者からのクレーム、学生からのクレーム、過労)
- 医院・歯科医院・接骨院・病院(キレる院長、鬼看護婦長、いじわる事務員)。組織ぜんたいが病んでいるとしか言いようがない医療機関もあります(実名はあえて伏す!)。
- 知的障害児・自閉症児施設、老健など介護サービス施設(キレイゴトでは済まない仕事です。ほんとうにタイヘンです)
- 数字を出せ! 営業職(生命保険会社、損害保険会社、自動車販売、スマホショップ、不動産営業、証券会社、etc.)。
- 京都市役所、京都府庁、教育委員会、労働基準局、日本年金機構など、各種官公庁。公務員もけっしてラクな商売ではないようです。
- コールセンター。デパ地下。「ブラック」といわれる会社・工場。人格円満と言うには程とおい教授が主宰する大学研究室(学部4回生・院生・研究スタッフいじめ。これも実名はあえて伏す!)。
ほか、一般的には、つぎのような事柄が「職場ストレス」となっています。
- 上司からの圧迫・叱責・暴言・暴力・性的干渉
- 先輩や同僚からのいけず、いやがらせ、職場での孤立、居場所のなさ
- 指導体制不備、慢性的人員不足(過労を強いる)
- 「転職」と呼ぶに近い異動人事
こうした職場環境から受けるストレスが高じてくると、以下のような症状があらわれてくる場合が多いのです。
頭痛、味覚減退、耳がこもる、耳鳴、めまい、たちくらみ、嘔気、嘔吐、声が出にくい(心因性失声症)、喉元の違和感・つかえ(ヒステリー球)、咳嗽(ストレス性)、動悸、頻脈、胸部苦悶、脇腹痛、食思不振、体重減少、胃痛、腹痛、下痢、手の震え、発汗、不眠、全身倦怠感、涙がとまらない、じんましん、微熱・高熱、円形脱毛症、意欲減退、集中力低下、抑うつ気分、過呼吸、パニック、自殺念慮、etc.
治療は、発症の原因が職場環境にあるのですから、そこからの離脱、つまり一時的な休職がまづは適切でしょう。
小医は、患者さんの置かれた状況をよくよく伺って、休職診断書を書きます。おおかた99%まではじゅうぶん理由があるといえる場合ですが、ごくごく例外的に書けない場合もあります。「詐病」とまでは言いませんが、患者さんの訴えが、余りにじぶんにとって虫が良すぎるだろうというような場合です。患者さんに「甘え」があることは否めないが、発達特性など医学的理由のある場合、小医は大体書いて差上げています。そのままにして追い込むと自殺企図のおそれもあるためです。しかし発達特性があったにせよ、社会的に到底認めがたい場合は、控えます。ここは小医の胸三寸です。
上記症状への投薬はあくまで対症療法ですので、ストレス減とともに、内服の必要も減じていきます。
参考文献
平島奈津子「適応障害の診断と治療」精神神経学雑誌120巻514-9頁2018年
渡辺洋一郎「ストレスチェック制度を産業精神保健の中にどう位置づけるか」精神科治療学31巻13-9頁2016年
古茶大樹「目的反応としての『軽症うつ病』」臨床精神医学37巻1249-55頁2008年
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