病気の説明・総論1
心の症状に対する基本的な考え方について
精神医学というと、難解なものと受けとめている方が多いのですが、意外や理論的には非常にシンプルかつ平易にできています。
心の症状は、伝統的に、つぎの3種類に分けられる慣例となっています。
- 神経症
- 精神病(うつ病、躁鬱病、統合失調症)
- 内科的・外科的に説明・理解しうる、器質性・身体性・中毒性の精神病
の3つです。②と③は医学的に「疾患(病気)」とされるものですが、①は「疾患(病気)」ではなく、「正常範囲内における変異(心の性質の偏り)」とされるものです。
現代、こころの病状は、全体として、軽症化傾向にあることが、世界的に認められています。閉鎖的な入院治療よりも、外来通院による継続的治療ないし単発的受診(相談)が、メインになっているわけで、心療内科・精神科クリニックが、昨今増えているのは、こうした流れを受けています。
こころの問題をみる場合に、精神科医の第一の使命は、患者さんの状態が、上記の精神病に該当するか(②、③)、そうでないか(①)、その見極めにあります。
人間、うれしいことがあれば有頂天になり、「ハイテンション」にもなるでしょうが、ただちにこれを以て「躁(そう)」になった、躁鬱病だと言っていいのでしょうか?
つらいことに遭遇すれば、意欲もわかず、気もふさぐでしょうが、これを以てただちに「鬱(うつ)」になった、うつ病だと言っていいのでしょうか?
人間は環境に支配される感情のいきものです。また、人の性格はさまざまです。そう簡単に「躁鬱病」とか「うつ病」とか言えるものではありません。
現代、日本社会はハイスピードで変化しています。社会の流れについていけない、環境適応の難しさから、心の問題は発生しやすいといえますが、その全てが上記②③の意味での「精神病」に該当するとは限りません。むしろ正常範囲内の心の反応として、生じているのであれば、それは「病気(疾患)」ではないのです。
ハッキリ「病気ではない」と医者から告げられることで安心となぐさめがえられる場合もあり、あらためて「病気ではない」と知ったとて、人それぞれにかかえる固有の「くるしみ」「悩み」「生きづらさ」が、直ちに解決されるわけではない場合もあります。
いかにも人間くさい、憂き世の諸問題を内包する領域です。
この上記①にふくまれる範囲の心の症状を「神経症(ノイローゼ)」と呼んでいます。ここには、人の数だけ個性があり、さまざまのまとまり、グループ像があります。
「境界知能」
「発達特性者(自閉スペクトラムAS、注意欠陥多動症ADHD)」
「心気神経症」
「ヒステリー(転換神経症、身体表現性障害)」
「パニック神経症」
「対人恐怖症(社交不安症)」
「あがり症」
「強迫神経症(醜形恐怖症やためこみ症を含む)」
「不安神経症」
「抑うつ神経症」
「神経性食思不振症(アノレクシア・ネルヴォーザ)/多食症(摂食障害)」
「情緒不安定性パーソナリティ」
「不眠症」
「適応障害(主に職場ストレスを原因とする抑うつ不眠などの心因反応。自律神経失調症状を伴うことが少なくない)」
etc.
治療指針として、環境ストレスが精神変調の主な原因であれば、休職など環境調整を行うことが何よりの「薬」となりましょうし、こころの変調の主因が患者本人にあるとすれば、じぶんの特性をよりよく理解するための精神療法や不眠不安などの症状軽減のためにする適量の投薬が助けとなるでしょう。
上記②の精神病は、うつ病、躁鬱病(双極性障害ということもあります)、統合失調症(昔、精神分裂病と呼ばれた)の3種をさして言います。歴史をふりかえりますと、従来、精神科の主な診療対象疾患は、第二次世界大戦以後、この②にありました。とくに、不眠や被害妄想、幻聴といった症状で発症する統合失調症です。さいきんでは「うつ病」が話題にのぼることが多くなりましたが、症状の世界的軽症化現象から、「うつ状態」のレベルが浅く、①の神経症圏か、それとも深く、②の精神病圏か、その見極めは難しい場合もあります。診断は年齢、生活史、発症経緯、経過をみながら、慎重に行います。
そして時代は21世紀に入り、ニッポンは、世界トップの超高齢社会であることから、上記③に分類されるアルツハイマー病など認知症(昔、老年痴呆といった)患者が急増していることはみなさんご存知の通りです。
としかわ心の診療所では、上記①②③に分類される心の症状を抱えた患者さんを広く、全般的に、診療していきたいと考えております。相談したいことがございましたら、どうぞ臆せず、気軽になんでもお尋ねください。
参考文献
古茶大樹、針間博彦「病の『種』と『類型』、『階層原則』 精神障害の分類の原則について」臨床精神病理31巻7-17頁2010年
笠原嘉『精神病』(岩波新書、1998年)
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