中学入試考

受験といえば、私らは、高校入試からで、中学入試などはゆめにも考えたことがなかったが、公立の小学校教育が、目標を全体のレベルに合せるということは、ツマリ、下のレベルに合せるということで、そこに国是が置かれている以上、上のレベルの子どもはたまったものではないので、公立教育に見きりをつけ、中学校に入る段階で、私立の進学校へむかう趨勢はこれをとどめることができない。いいのか悪いのか。しかし国が「人材」を育てるのに邁進を躊躇する姿勢を示していることは、いくら言訳をしようとも、事実であり、これをとがめる言論があっていいはずだが、商売上の戦略からマスコミは成績低位層に味方する言論を主調とし、上位層に味方する言論はまるで取り上げない。しかし、国富をなんと考えるのか。

中学受験で一番むずかしい学校が、灘中学校とされている。算数の問題が優れて難しいからである。これに象徴されるように、大学受験でもそうだが、算数(数学)を制する者が受験を制すると相場がきまっており、受験勉強は算数に最大限の時間が費やされる。問題のレベルは最低高校入試、最大大学入試レベルなので、なまじかな親では到底教えきれるものではない。だから塾が繁盛する。しかし今年はコロナ禍で、塾の教育スケジュールは壊滅的打撃を受けてしまったので、「中学受験は親の受験」という言葉どおりに、親が教える以外に道がなくなってしまった。

そもそも勉強というものは「志学」という由緒ある言葉が論語にあるように(吾十有五而志乎學)、本人の自覚と意志、つまり自立の精神に基づくべきものであるが、小学6年生の子にそれを要求するというのは、そもそもが無理のある話で、「おまえの好きに勝手に勉強しろ」という親の態度は、人間の発達レベルを考えると有害ともいえる。「おとな」の基準からすれば「甘やかし」「依存」となるかもしれないが、親かそれに準ずる大人が、親身懇切に愛情をもって子供に勉強を教えてやるのが、この発達年齢のこどもには必要であり有益なのである。本来、教育は家庭の義務であり、塾に外注するのはそもそもがまちがった料簡なので、親がこどもの勉強を教える本道に立ち返らせたのは、今回のコロナ禍のメリットといえるかもしれない。

しかし親が子供に勉強を教えるのはデメリットがあって、それが感情的になることである。これは不可避な傾向で、よほど親が訓練されていないと「なんでできないか」と親が怒り、こどもがおびえ、泣き、いじけるということになる。だから親に必要なのは「忍」の一字で、まづは「よその子をおしえる」という意識をもつことだ。「じぶんの子を教える」と思えばこそ、その不出来に腹が立つ。しかしこどもは完成途上にある。実りは待たないと得られない。ここでも大切なのは「忍」の一字となる。また親自身の不出来をつねに反省する必要があるだろう。不出来な親に不出来なこどもを責めることはできないのである。

中学受験はそもそもが矛盾を内包している。小学校6年生に高校入試或は大学入試の問題を解かせようとするのだから、思い切り背伸びをさせないといけない。しかしその一方で、所詮こどもはこども。親が期待するような「大人の理解」はそもそも無理なので、こどもに独特の「考え方、感じ方」も尊重してやる必要がある。こどもの目線とおとなの目線。それを調和させるのは、やはり親の愛情しかないのである。

「親が子供と一緒に面白がって学んでやり、子供にさりげない工夫や知恵を授け、子供にたくましい挑戦の意欲を起こさせる家庭と、親が何もせずに子供を放っておき塾に放り込むだけである家庭では、子供の学力には、天と地の差がついてしまいます。これは空理空論ではなく、私が今まで見てきた親や子供たちについてかなり経験的に当てはまります」(栗田哲也『親と子の算数アドベンチャー』東京出版、「はじめに」)

勉強をこどもに教えるしごとをひさしぶりにしてみると、いろいろなことを改めて考えさせられる。上の栗田先生の言葉など、正にその通り! と思わずにはいられない。

 

 

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