ラーメンとかいふもの

ラーメンは、下等なたべものである。その考へはこどもの時から変はらない。

私らがこどものとき、ラーメンといへば、それはインスタントラーメンのことであり、家庭で貧しくつくつて食べるものであり、店外に行列をしてまで食べるものではなかつた。私のむすこが私がおしへたわけでもないのに、まだ小学校に行くか行かない頃、「ラーメンなんて、並んでまで、食べるものではないしな」と、「ラーメンの国」一乗寺に並ぶ学生たちを見て、言い放つたことに失笑を禁じえなかつた。遺伝、おそるべし、とおもつたからである。

「出前一丁」は味噌味で、「サッポロラーメン」は塩味がうまかつた。そのあと「中華三昧」とかいふのがあつたつけ。これらが食べられるのは、土曜日のお昼と厳格に定まつてをり、例外はなかつた。味は、そんな大した代物ではなかつた筈で、からだに悪いものであることも明瞭だつたが、世の中には縛りがあると、「禁断の味」といふものがうまれるしかけになつてをり、それがインスタントラーメンによけいな「魅惑」をあたへてしまつたのかも知れない。けつしてキライではなかつたが、こんなものは食つて喜ぶべきものではないのだといふ「信念」は強固に保持してゐた。

私は恥もしらずラーメン屋に立ちならぶ人びとがうまれる時代になつても、横目にとほりすぎるだけであつたし、じぶんも並んで食べたいとも思はなかつた。私は生来、大衆のなかに参加することを嫌悪する人間なのである。

そのわたしがからだを病んで行動範囲が狭くなつたせゐで、いままでけつして立入ることのなかつたラーメン屋に出没するやうになつた。人生、なにがあるかわからないものである。

ラーメン屋のサーヴィスは概して悪い。まづ食券を買へ、といふ。これが私は若いころから好きになれない。大丸ちかくの「凛RIN」とかいふ気取つた店に入つてみた。旨い。それはあたりまへだらう。使つてゐる材料が一級品といふことだ。だから高い。しかし、麺に添へてある具材はぽっちりである。「たかがラーメンである」。この信条は変はらないので、二度と行かない。他の店より500円以上高いがその価値をみいだすことが私にはつひにできなかつた。

近辺で最も人気を誇るのが「たか松」である。旨いとおもへばこそ、みなさん、足を運ばれるのだらう。私も一往3度足を運んでみたが、しかし、いつたいどこが旨いのかわからない。いろいろ意見はあらうが、私は、まづいと断言する。これを旨いといふ人の舌の出来は良くない。

わが診療所からいちばん近くにあるのが「ムギュ」といふ店である。紹介した3店のなかで、ここの店内がいちばん汚い。しかし、たかがラーメン屋なので、私には大変このもしいのである。カウンター席から、ラーメンをこさへてゐるキッチンも丸見えで、汚いが、ラーメン屋なのだからそれでいいのである。しかし、存外、椅子はすわりよいし、冷水もシトロン・スライスが入つてゐて、私にはうれしい。

さてと、ながながと余計なことを書いてきましたが、以下が本題で、「ムギュ」が始めた夏の冷やしラーメンが絶品なので、ぜひ、みなさん、お試しください。毎日、食べても、飽きが来ませんね。スープには味醂と酢が入つてます。冥加がスライスで添へてあるのが良い。鶏の首回りのセセリの肉が炒めてあるのが、スープと合つてます。…こんなごたくはどうでもいいので、以上、無料宣伝でした。

関連記事

  1. お庭めぐり

  2. 三月尽

  3. おおきに

  4. The Flower of This Week (12)

  5. 帽子のかむり方

  6. 懐かしの日本映画劇場

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

このサイトについて

京都市中京区蛸薬師 四条烏丸駅・烏丸御池駅近くにある心療内科・精神科クリニック「としかわ心の診療所」ウェブサイト。診療所のこと、心の病について、エッセイなど、思いのままに綴っております。
2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

カテゴリー