ふくやまへ

福山城壁

7月のやすみ、小雨をおして、ふくやま美術館まで、新幹線に乗り、英国壁紙展を見に行ってきました。きちんと勉強してみようという私のきもちにこたえてくれる美術展で、カタログもわかりやすい上、記載豊富で、大変有益でした。

壁紙というのは、18世紀のヨーロッパで大いに発展した産品で、もとは織布(タペストリー)だったのですね。壁紙はそれより劣るわけですが、それでも贅沢品だと、けちな人が多いイギリスでは税金の対象となったので、産業は発展せず、そのかわりに19世紀前半までは、けちがきらいなフランスで大いに発展していたのが、これではイギリスの国富を損なっているというので、課税法制が撤廃され、19世紀後半から巻き返しを図ったイギリスで大いに壁紙産業が発展したということです。

しかし、時代をになう美を体現するデザインの考えについては百家争鳴、無数のデザイナーがいたわけです。

ウィリアム・モリス(1834-96)は正にその時代の渦中にいた人で、壁紙制作もするのですが、それ以上に生活全般にわたって、上質な美に満ちた暮しをしたい! と願った人で、その思想に若き日の永井荷風や芥川龍之介も共鳴しています。生活空間はいわばこの世の楽園でなければならず、「役に立つかわからないもの、或は美しいとは思えないものを家の中に置いてはならない」と言ったそうです。

わが診療所には4つのモリス・デザインがあります。

①受付カウンターのうしろの壁紙が「るりはこべ(ピンパーネル)」(1876年)。タイトルの「るりはこべ」は、じつは小さな花で、主役の大きな花はチューリップです。これも実際に見ると堂々たる迫力で、忘れがたい印象を与えます。

②待合の3つの窓のカーテンが「アカンサス」(1875年)。モリスはアカンサスがすきだったようで、この作品は下のカーテンの写真ではわかりませんが壁紙だとかなりの迫力があるので、当時の富裕層に爆発的な人気を博したそうです。

③第一診察室の「スクロール」(1871年)。この作品はよくみると、背景となるバックプリントもあるとわかります。重層的にデザインを構成するのがモリス・デザインの特徴で、主役となる花柄のデザインもパタンがあるとは言い条、複雑で12枚もの版木を必要としており、当時この壁紙は一番高い商品だったそうです。長い間その部屋で仕事をしていながら知らずにいた私は「へえ~、なるほど」と勉強になりました。

④第二診察室(青い部屋)の「柳の枝」(1887年)。これはモリス商会を象徴する作品として位置づけられているそうです。ツマリ、モリスといえば、コレ、みたいな作品です。これも一度みると忘れられない印象を与えます。

モリスと言えば、日本ではなぜか俗に「いちご泥棒」ばかりが取り上げられる弊がありますが、実際にみると私にはたいそう野暮ったい気がしました。上記4点以外にモリスには、「菊(クリサンセマム)」(1877年)の豪華さや「ぶどうの木」(1873年)の重厚さ、「ライト・ラークスパー」(1875年)の軽やかな明朗さなど、捨てがたい作品が他にもあります。また、モリスの後継者たるジョン・ヘンリー・ダール(1860-1932)の「ゴールデン・リリー」や「レスター」「海藻」なども傑作といっていいでしょう。

 

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