庭のはなし(1)

『荷風追想』(岩波文庫)といふ本を読んでゐると、荷風のことを最も愛した関根歌といふ女性の記があり、心うごかされる。

荷風は、麻布市兵衛町の高台に、木造の洋館「偏奇館」を建て、その小庭にさまざまの花木を植ゑて楽しんでゐた。

…春になると、門から玄関のところまで植ゑられた沈丁花のすばらしい香りがなんともいへず、お宅から二、三丁さきからぷうんと匂つてくるほどでした。なつかしい麻布のお宅でした。(前掲書134頁)

この一文を読むだけでも、本書をあがなつた価値があるやうに思はれる。

庭といへば、日本では花のない、苔の庭などに高い価値が置かれがちだが、さうか。仏教は日々ほとけに花をささげるものではなかつたのか? 私は生涯つひに叶はないものとあきらめてはゐるが、花と香りに満ちた庭にあこがれてゐる。

冬は蠟梅。春、沈丁花。初夏は梔子(くちなし)。秋、金木犀。梔子は害虫がつきやすいらしいが、ほかはさうも聞かない。花木の紹介は『枕草子』に似てゐると書いてから気づいた。

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