申込んでおいた安藤榮作展の図録が、奈良県立美術館から送付されてきました。
安藤榮作氏(1961-)は、東京の人。展覧会のタイトルに私は魅かれたのです。The Promised Journey of Souls.
promisedは「約束の」。日本人はキリスト教を知らないので、さう訳して意味は知らない人ばかりですが、この「約束」は、神との約束。「約束の地」は、The promised land. そこには「乳と蜜 milk and honey」が流れ「小麥、大麥、葡萄、無花果、柘榴、油橄欖」の実る、豊穣の地。「乳」は牛ではなく、ヤギか羊の乳。「蜜」も、蜂蜜と単純に考へやすく、われらの祖先は頭がよかつたと言ひたいでせう、これは蜂蜜なのだと強情に言ひ張るユダヤ人もゐますが、すなほに考へる限り、これはナツメヤシの蜜です。
安藤氏は、これを「約束の船」と詩的に訳し、わたくしは文字どほり「約束の人生」と訳しました。「魂の旅」は誤訳です。(笑)
安藤氏はクリスチャン。高校2年生の時に誓つたさうです。神様に。彫刻家になると。立派です。さういふ人でなければ藝術家とは言はれません。展覧会のタイトルを見て、わたくしは、これにはキリスト教的含意がキットあると思つてゐたのでしたが、果して当りでした。三浪して、東京藝大に。しかしその先も道は険しく植木屋でバイトをしてゐたときに、廃棄される木材をみて、「ああ、あれは俺だな。この世には要らない存在なのだ」と哀しんださうです。しかしそれで彫刻は材木でやるといふ気持が定つたさうです。「あの材木を活かさないと、おれも活かせない」。
奥さんも彫刻家。生活は苦しく、福島県の山間部に15年、海岸部に5年住み、将来の展望も開けずもうギリギリのところまで追ひ込まれた時に、あの大津波がやつてきたさうです。これは「売れるぞ」と期待してゐた彫刻の大作はことごとく流され、残つたものは売物にならぬ家族の思ひ出のがらくたばかり、ツマリ「真心」だけが残つたのださうです。
人生は暗転したかに見えたのですが、2011年5月に奈良県に越してから、安藤氏の作品にはにはかに注目が集まり始めたさうです。作品にはパワーが全体に漲みなぎつてゐて、わたくしにお金とよい空間が確保できたならば、ひとつ買い求めたい程でした。安藤氏の作品が映えるためには、適切な(大きい)空間が必須でせう。
わたくしの、神様から約束された「人生といふ船」はどこに向つてゐるのであらう。停泊地はどこか? さういふことを考へた展覧会でした。…思ふやうに生きればいゝだけの話なのですけれどね。






