人生俳句

明けて平成31年、みなさま、あらためまして、お目出度う御座います。

サテ文学の華は詩文、和歌俳諧にありまして、短歌は女手、俳句は男手と、男女七歳にして席を同じうせず、古来自づから隔て有る一方、一年の計は元旦にあり、来しかたゆく末、思ひめぐらせて、人生航路の流れを今回は俳句で辿つてみたく存じます。

「俳句はチトわからぬ」

さういふ御仁多いが、御尤も。じつは私にもよくわからぬ。然しわからぬは手前が悪いんぢやない、俳句の方で悪いのだ。

といふことで、今回は一読即解、野暮な能書は要りませぬ、ツマリハ佳句のみ、酸いも甘いも嚙み分けて、五十ばかりを蒐めてズラリ並べてみました。

御賞味下されば難有いと云爾。

 

初雪は生れなかつた子のにおい  対馬康子

どれどれとみんながのぞく初湯の児  三嶋隆英

天瓜粉(てんかふん)しんじつ吾子は無一物  鷹羽狩行

おちんこも欣々然(きんきんぜん)と裸かな  相島虚吼

裸の子裸の父をよぢのぼる  津田清子

駈けだして来て子の転ぶ秋の暮  久保田万太郎

泣いてゆく向ふに母や春の風  中村汀女

捕虫網かたちなきもの追ふごとく  大串章

蜻蛉(とんぼう)の羽化を見て来て朝ごはん  藺草慶子

ぶらんこをはづれて浮かぶ子供かな  鴇田智哉

空深く伸びてゆくなり凧の糸  田中政子

算術の少年しのび泣けり夏  西東三鬼

少年や水切つて飛ぶ春の石  嶋岡晨

一生の楽しきころのソーダ水  富安風生

初恋や燈籠によする顔と顔  炭太祇

縁は異なものとぞみかん剥きあへる  万太郎

白を着て娘ざかりや涼新た  岩井英雅

梅林を額明るく過ぎゆけり  桂信子

学問のさびしさに堪へ炭をつぐ  山口誓子

あきかぜのふきぬけゆくや人の中  万太郎

愛されずして沖遠く泳ぐなり  藤田湘子

ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜  信子

窓の雪女体にて湯をあふれしむ  信子

薔薇匂ふはじめての夜しらみつゝ  日野草城

ふり仰ぐ黒き瞳やしやぼん玉  草城

羅(うすもの)や人悲します恋をして  鈴木真砂女

鰯雲ひとに告ぐべきことならず  加藤楸邨

汗臭き鈍の男の群に伍す  竹下しづの女

水打つてそれより女将の貌となる  真砂女

菊つくり得たれば人の初老かな  幸田露伴

さまざまの事おもひ出す桜哉  芭蕉

この秋は何で年よる雲に鳥  芭蕉

竹馬やいろはにほへとちりぢりに  万太郎

遠く来て名もなき川の春の暮  信子

さびしさの底ぬけてふるみぞれかな  丈草

頓服の新薬白し今朝の秋  芥川龍之介

かげらふややうやくなじむ薬の香  竹久夢二

腸(はらわた)に春滴(したた)るや粥の味  夏目漱石

冬麗の微塵となりて去らんとす  相馬遷子

有る程の菊抛(な)げ入れよ棺の中  漱石

今は亡き人とふたりや冬籠(ふゆごもり)  万太郎

持てあます西瓜ひとつやひとり者  永井荷風

何ごともひとりに如(し)かず冷奴  万太郎

失ひしものを探しに冬帽子  有馬朗人

探梅や遠き昔の汽車にのり  誓子

湯豆腐やいのちのはてのうすあかり  万太郎

大寒の埃(ほこり)の如く人死ぬる  高濱虚子

蓑虫や思へば無駄なことばかり  斎藤空華

青空や花は咲くことのみ思ひ  信子

菫(すみれ)ほどな小さき人に生まれたし  漱石

八瀬大橋からながめる雪景色

 

 

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