御礼(2)

その昔、文人の荷風散人は、麻布の偏奇館に、だいすきな秋海棠は勿論のこと、ありとあらゆる花木を植ゑて楽しんだ、と聞きます。その『断腸亭日乗』のどこかに、誰かから秋海棠の株をわけてもらつて夜帰途につく時の、たとへやうのないうれしさをすなおに録した記事のあつたのを今に覚えてゐます。

花木を愛することは、古よりつづく文人趣味の基本。

荷風の最も敬慕した文人、鷗外漁史(中公文庫には『鷗外先生』なる題名にまとめられた荷風の随筆集さへある)においてもその事情は同様で、団子坂上の観潮楼には四十坪ほどもある広い庭があり、

垣根の向うは相当広い庭で、あらゆる花といふ花の咲乱れた、思出しても素晴らしい処であつた。

私たちは其処を花畑と呼び、全然様子の変つてしまつた今でも名称だけは変へずにゐる。

これは祖母から続いて父の代まで丹精したものであつた。(小堀杏奴『晩年の父』岩波文庫、119頁)

そこにどういふ花木が咲いてゐたか、知りたい人は、上記の本のページをぱらぱら繰つてみてください。いつぱい出て来ます。

花をみると幸福になる。

退院をして、花束をわたしに呉れた患者さんが一人ありました。いつもお上品でらして、診療所の趣味を愛して下さつてゐる方です。ほんたうにうれしく思ひありがとうございました。茲ここに小文を記しるし感謝申しあげます。

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