病気の説明

病気の説明・各論5-4

クレプトマニア(5)

 

「クレプトマニア」とは医者が臨床的にそう名づけるもの

すでに上述もし、これから後述もするように、その名をクレプトマニアと呼ぶ呼ばないは置いて、いわゆる「窃盗症」はよほど特殊の例外のない限り、完全有責で構わない。これが刑事司法の伝統である。古茶大樹氏が文献5でまとめているように、DSM-5の診断基準などというものと離れて、また吉田精次氏が文献3で臨床的観察をまとめているように(吉田氏はDSM-5の診断基準が司法的なものとは知らないようですが)、医者が治療的にかかわることで(べつだん医者でなくとも構わないのだが、利用できるリソースとして、医者以外のだれが存在するというのだ?)、「改善」(再犯予防)をみこめるかもしれない「臨床医学的意味でのクレプトマニア」という類型グループが多数あるのが現状で、この「臨床医学的意味でのクレプトマニア」の診断基準を論ずるに、DSMなぞは全く不要で、臨床医の観察の積み重ねから、これから作っていくより外ないものだと思います。

国際的診断基準といえば、豪いものだとか日本人は考えがちですが、たとえば、ICD-10は、クレプトマニアとうつ病は合併しないといい、DSMはするんだとか言っている(文献1 p.10)。ばかげた話です。しかし、ややこしい話はおいて、たとえば、人に「うつ状態」を齎しうる近親者の死は、窃盗症の引き金となりえます(後述)。実例を5例以上もわたくしは診たのだから、この話に嘘はない。また臨床的に、この話は常識である(同旨、文献8 p.116-9, 179-81)。そういう話に上記の診断基準を当てはめてなどと、ばかげたようなことをしても仕方がない。

念のため、ひとこと付言しておくのだが、精神科の臨床医は、いちいちアメ公のつくったDSMなどをみて診断しているのではない。統合失調症、うつ病、発達障害はじめ、殆どありとあらゆる精神障害はみた瞬間に診断がつく。それは他の内科医師においても同様である。医者は検査をして診断をするものだと一般人の中にはこういう考えを持っている人が時にあって驚かされるが、まちがいである。8割以上の病気はすでに問診の段階で医者が診断を付けた後、その真偽を確認するために検査をしているのである。医者の診断は多数例をみたうえでのパタン認識で、診断は瞬時である。

クレプトマニアといえば、バカな精神科医は必ずDSMに触れるので、やむなくDSM-5に言及したが、そこにいうクレプトマニアは厳格な司法的判断基準であること、われわれ臨床医のいう「クレプトマニア」は、あくまで治療的概念であって、臨床経験の集積からまとまってきた臨床像にすぎないこと。この区分をしたうえで、法廷においては情状を酌量するも勝手、しないも勝手、気随気儘なのですが、わたくしの経験からは、少々「きのどく」な方が多いようなので(DSMも厳格な司法的判断基準を堅持する一方で、有病率を4-24%と見積もる矛盾を犯しているように)、寛大な判決があるのが望ましいのではないかと愚考しているのである。

文献)

1 竹村道夫・吉岡隆編『窃盗症 その理解と支援』(中央法規2018年)

註)内容雑多で散漫な編集。全く感心できない本。おまけにすこし重い。要は赤城高原ホスピタルの宣伝本。

2 下坂幸三『拒食と過食の心理』(岩波書店、1999年)

註)下坂幸三(1929-2006)は、日本の殆どの精神科医が精神分裂病(統合失調症)とうつ病の治療に注力していた時代に、治療難度のさらに高い摂食障害の診療に生涯携わって来た稀有の医師である。医学以外にもさまざまなことに造詣深く、敬意を表さずにはいられない。下坂はフロイト派の医師だが、本書は臨床の智慧がこれでもかこれでもかとちりばめられている名著である。

3 吉田精次『万引がやめられない』(金剛出版、2020年)

註)吉田精次氏は、徳島県の臨床医。わたくしは吉田先生と面識はないが、臨床上の感覚において甚だ共有しているものを感じている。

4 吉永千恵子「クレプトマニア」精神科治療学33巻8号923-8頁2018年

註)ドライな視点で公平に俯瞰している点が評価できる。

5 古茶大樹「クレプトマニアの責任能力」日本精神神経学会雑誌122巻11号822-31頁2020年

註)わたくしは、二回だけ古茶先生と面識があるが、とてもフランクな方で、普遍的な精神医学を志向する上で、認識を一にしている。この論文については、なんぴとたりとも、ケチをつけることができない。

6 京橋メンタルクリニック「窃盗症とは」

https://kmc-ynb8.com/free/kleptmania

註)竹村道夫医師じしん、じぶんのみた症例2100例中DSM-5を満たすものはたった1例であったと白状している。

7 衣笠隆幸ほか「重ね着症候群とスキゾイドパーソナリティ障害:重ね着症候群の概念と診断について」日本精神神経学会雑誌109巻1号36-44頁2007年

註)自閉症特性のあるすべての者とは限らないが、常識的に期待できるであろう相互理解が全く深まらない一群が存在することを明言した画期的論文、とわたくしは考えている。おそらく、一部のヒューマンな精神科医には気に入らない内容だろうが、臨床的、科学的には事実だから、この指摘から目をそらすことはできない。ただし、相互理解がある程度進む群も、むろんある。

8 斉藤章佳『万引き依存症』(イースト・プレス、2018年)

註)東京にある大森榎本クリニック(依存症専門外来)で働く精神保健福祉士(PSW)が著した本。コンサイスとはいえないが、クレプトマニアの論点について満遍なく記載してある良本。

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