じゆうなきぶんを味はふに適當なごらくは、銭湯に足をはこんで湯につかり、鼻うたを唄ふこと。ビイルを飲みながら昔すきだつたまんがを読んでわらふ事。さいきん、『美味しんぼ』と弘兼憲史のまんがが、診療所にすこしづつ増殖し出してゐます。
けふは、60歳の女性患者から、「センセイは、てっきり、もっとお若い方、若いのにずゐぶんと落着いていらつしゃるふしぎな方と思つてゐました」といはれて、きげんがいゝ。だからよけい自然に鼻うたが出る。
けふの鼻唄は、関種子(せき・たねこ)の『雨にさく花』。これは鼻唄にとゞまらず、チャント歌詞まで忘れない。たゞし一番だけ。
およばぬことゝ あきらめました
だけど恋しひ あの人よ
儘ままになるなら いまいちど
ひと目だけでも 逢ひたいの
戦前の歌(昭和10年)。津川雅彦が主演した映画『濹東奇譚』にも、荷風が銀座のカフェ・タイガーに登楼するシーンに挿入されてゐます。コンチネンタル・タンゴの哀しい響が、ハイカラで、時代に埋もれることなく、今に通じてゐます。




