病気の説明・各論5-13
クレプトマニア(14)
窃盗症「クレプトマニア」について(続き)
5)これらストレス反応としての「非行」の意味はなにか。これについて、わたくしもいろいろ愚考してきました。自傷や売春などは、他人に向けるべき攻撃を、弱さゆえにじぶんに向けているのだとか、万引は他人への八つ当たり、或は家族への復讐(文献8 p.127)なのだとか。これはそれなりに説得的な「理論」になっているのかも知れませんが、どうもスッキリしません。
しかし、ようやく、わたくしはすべてを包括するもっとも単純な真実に行き着いた気がしています。それは万引という結果を齎した「原因」は何か、これに、すなおに注目することです。原因は必ずあるはずです。
原因は、ストレス源となっている(つらい、苦しい、哀しい、さびしい、怒り・不満に満ちた)「現実」です。この「つらい現実」を瞬時でも「忘れられる」こと、この「忘却」は、快楽です。慰安です。
それは往々動物的本能(恐怖心、性欲、睡眠、食欲,採集、狩猟、備蓄)を満たす行為に身をゆだねることで齎されます(同旨、原裕美子『私が欲しかったもの』220頁にある平井愼二医師の説明)。
「頭のなかがカラッポになる」。「(快刺戟に)夢中になる」。「なにもかも忘れられる」。「あたたかい気持につつまれる」。強い人間は根本的解決を図るべく現実に立ち向かい格闘しますが、弱い人間にはそれができませんから、安逸のその場しのぎに逃避するのです。これはもちろん仮説ですが、理屈が最もすくないので、よい仮説ではないかと思います。
註)カッターナイフによる自傷は当然「恐怖心」をにんげんに齎すが、この氷りつく緊張は「つらい今、現在」を瞬時忘れられる。しかしこのストレス負荷はやや倒錯的なので、多く精神安定薬やアルコール内服と共に行われやすい。性欲以下は、本能的快楽そのものをダイレクトに齎す。
「原因」について直面したくない人がいます。先のX→YについてYだけ小医に示してXを当ててくれというある種コミカルな患者群がいます。ふつうXはコレだなと容易に予測がつきそうなものなのに、抜群の高学歴者でそんなことをする人(結構ある)には、発達障害特性があるのだろうと思います。或は単純に、頭はいいのに、こころは幼いのか(精神的に未熟なカワイイ女の子が、典型例。山ほどいる)。
それ以外では、「現実」を直視したくない心理が鞏固に働いているとみられます(防衛心理)。この「防衛心理」はフロイトの仮説ですが、これだけは小医の経験上、臨床的にも、おそらく科学的にも、まちがいのない人間の心理的事実です。にんげんは自己のこころの範囲ぜんぶをカヴァーしていません。じぶんにつごうの悪い所は見ないように、じぶんに都合のよいところだけを見るようにして、じぶんを守ろうとする防衛心理の鞏固さには凄まじいものがあると思います(同旨、文献4 p.924, 925)。

