白いクロスの苺

先月、ご近所の大丸でお昼をとった帰り、絵画市の催しにフラフラと吸い込まれてしまったのですね。名だたる画伯の絵も売られています。

上村松園の下絵みたいなものでも500万円!とか(…でも、いいものでした)。

ピカソのちっちゃな落書が、おどろくなかれ、2000万円だったか、2億だったか…。

…たとえ、10円で売られていても、私は買いませんけどね。

こんな市で私の胸を打って、かつ私の財布で購えそうなものはどうせないのだろうと思って、出口に向かったところで、…見つけたのです。齋藤博之『白いクロスの苺』を。

私はリアリズムの絵が好きです。

いまはまちがってエッシャーの絵のようなものが「だまし絵」と理解されていることが多いのですが、絵画史上、本物そっくりに描いてある絵こそが「だまし絵」と呼ばれる伝統です。

モチーフは、いま、ここに確実に生きているが、いづれ、衰滅にむかうものが選ばれること多く、「生命のはかなさ」を暗にしめすものが選ばれることが多いと言えます。ここでは、新鮮な苺がそうです。

クロスのレース刺繍も、レースそれ自体は永遠に残る一方で、その労働の手仕事をした人は、いづれ亡くなるということを暗示していると言えましょう。

買いたい!

即座にそう思いましたが、一日は頭を冷やします。

…衝動買いは、ロクなことがありませんので。

しかし翌朝めざめても、買いたいきもちはかわらなかったので、気持はホンモノと確かめて売場に再登場。

絵の前に、じっと立っていると、この客は買う気だなと自然周囲につたわるものなのですね、画廊スタッフがおもむろに近寄ってきて、私の耳元でささやいてきます。「ずいぶんとお気に入りのようですが、これほどでいかがでしょう?」

一往正札はついているのですが、そうそう絵なんて売れるものではないのでしょう。客のたいていはひやかしです。「ふうむ」とか適当なあいづちを打っていると「最大限勉強させていただいて、これでいかがでしょう」とか勝手に値下げしてくれるので、うれしいものです。

悪い客はさらにつけこむのだそうですが、じぶんが気に入ったものを買うのに、そう値を叩いてはいけません。旦那然として「いいよ」と包んでもらいました。

わが診療所に通う患者さんは、お花や園芸がおすきな方が多く、六月のあじさいは特に「ダンス・パーティー」をみなさん、賛嘆されておりました。この絵についても、「私、いちご、大好きなんです」とおっしゃってくださった方がおられました。

買った甲斐があるというものです。

医者なら金があるのだろうとやっかむ考えの方が多いと思いますが、私どもの内情を包み隠さず申上げれば、びっくりされるはずです。病後の6ヶ月間、いまだ利益ゼロです。最盛期の50-60%なのですから仕方ありません。

しかし6月に入り、ようやく小医も元気になってきたようで、帰り道にふらつくことがやっとなくなってきました。景気づけに買ったこの絵が幸運をもたらしてくれたのかも知れません。

齋藤博之「白いクロスの苺」(30×60センチ、2019年)。齋藤画伯は北海道の方だそうです。また新作が見たいものだと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

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