心地よく暮らす(1);花

わが小庭に実ったさくらんぼ。格別の味ではないがおいしく食べられました。

『&Premium(アンド・プレミアム)』というマガジンハウスから出ている雑誌があります。

書店にいくと、きまじめで地味な『天然生活』よりは垢ぬけたオシャレ感があるが根は出版社が『anan』などを出しているマガジンハウスなだけにミーハーな、時流に投じただけの脱力系雑誌だろうと、表紙だけながめて、手に取ることはついぞなかったのですが、「心地よい日々をすごす」ことをモットーにして発刊7年目に突入しているそうです。

そういう雑誌が編輯方針そのものをズバリ特集したのが6月号、タイトルが「心地よく暮らす人が、習慣にしていること。」というので、ついに初めて手に取り、買ってみました!

アンリ・マティスふうの表紙がオシャレですね。

生活美学の王道は、東アジアでいえば、すでに500年も昔の明末清初の中華文人、日本では戦国時代以降、千利休など茶の湯にこころをよせた数寄人の趣味生活に、ほぼ完成していて、今さら付け加えることはほとんどないと信じています。

それでもなぜ買ったかというと、現代の日本に生きる職業人(主に女性)の理屈ではない、じぶんの体験に基づくじっさいの意見が、たくさん寄せて書かれていたからです。

ここちよく毎日を過ごすためのくふうには沢山あると思うのですが、そのひとつに「花」や「グリーン」を身ぢかに置くことを少なくない女性が挙げていました。

私は、職掌がら、ADHD傾向をもった人の理解をふかめるために、はやりの「断捨離」系「お片付け」本も、おりにふれ購入して「研究」しているのですが、そういう本にも、花と緑のことは例外なく触れられています。

雑誌は「まとめ」として、故人ですが、目ききとして名高い、白洲正子さんの言葉「一日たりとも花を欠かさない」を挙げています。

花は仏に捧げる献花の習慣として、禅宗数寄の茶人も茶花を茶事において欠かしませんし、17世紀、明の文震亨(1585-1645)によって書かれた『長物志』にもまとめられているように、「花卉」「蔬果」を生活の彩りにすることは士大夫文人の私生活においても必須、東洋画の伝統においてもまた然りです(泉屋博古館で売っている『フルーツ&ベジタブルズ 東アジア蔬果図の系譜』は、中国朝鮮日本の伝統をわかりやすくまとめた良本なので、おすすめします)。

こころに栄養が足りないなと思う時は、スーパーで200円程度で売っている安価な菊で構いません。湯飲みなど間に合わせの食器でもこの際構わないので活けて身ぢかに置いて眺めてみると、ふしぎに心やすらぐものだと思います。

小さな花器はぎをん南「昂 KOU KYOTO」で購った辻村唯の作。ぽちっと付いた「でべそ」がかわいい。花は菊とリモニウム。器と花のとりあわせはわが息子による。「コレッ!」と選択と決断は父譲りで一瞬。古帛紗は龍村美術織物製「漢王車馬文」。

元号も改まり、5月に入って、弊院もついに開業3年目に突入しました。

この2年間、いったいじぶんは何をしてきたのだろうと思い返すことしばしばですが、結果として残ったことのひとつに、花の知識があります。患者さんをむかえる診療所の毎日のしつらえに、切り花を買ってきて、実際に生けてみて、を日日続けてきて、それだけの甲斐はあったかと思うのです。

世界文化社から出版されている『アレンジ花図鑑』(2011年)によると、「花の国」オランダに出回っている花の種類が1万種であるところ、わがニッポンは、4万種も流通しているといいます。日本はいかに美意識が発達している国かとよろこんでいいのでしょうが、自室にお花を飾る習慣のある人がどれだけあるでしょう?

斯く申す私も開業するまでは、そういう潤いある習慣なぞからきし持ちあわせなかった人間なので、開業したことはじぶんにとり日日のしあわせに繋がったと幸運に感謝しています。

花を身ぢかに飾る生活は、たしかに人を幸福にすると思います。あるのと、ないのとでは、大きな違いがあること間違いありません。

この本を便りに、これまで飾ってきた覚えのある花を順にならべていくと…

バラ、アイリス、アザミ、アスター、アネモネ、アリウム、アルストロメリア、カスミソウ、カーネーション、ガーベラ、カラー、キク、クルクマ、クレマチス、ケイトウ、コスモス、サンダーソニア、シャクヤク、シュウメイギク、スイセン、スイートピー、ススキ、スターチス、リモニウム、ストック、センニチコウ、ダリア、チューリップ、デルフィニウム、トルコキキョウ、ナデシコ、ネリネ、ヒマワリ、ブプレリウム、ブルースター、フリージア、ベロニカ、マーガレット、ユリ、ラン(オンシジウム、コチョウラン、シンビジウム、デンファレ、モカラ)、リンドウ、レースフラワー、オクラレルカ、コデマリ、レンギョウ、シンフォリカルポス、センリョウ、ヒペリカム、啓翁桜、などなど。

もちのいい花、わるい花、いろいろあります。これも実際に買って活けた経験があると覚えるもので、なければ覚えることがありません。「経験をへて得た知識」がいかに大切かわかります。それは安くありません。けっこうな「経費」がかかっていますので!(笑)

蘭がいいですね。四君子(菊、竹、梅、蘭)のひとつ。文人は四君子の絵など、いつでもサラサラと描けて当り前だったようで、また、実際に蘭や菊をそだてるのは昔、ひとから「旦那」とよばれるほどの人はうちこむのが当然の趣味、藝のひとつだったと言います。烏丸姉小路にある御菓子司「龜末廣」のご主人は蘭がお好きと店の人から聞きました。ねだんは高いですが長くもちます。ながめて飽きません。弊院ではよく水盤に浮かせています。しかし香がないのが残念。

水盤を使ってがんばるとデンファレの青い蕾もついに咲くことを最近知りました(本には開花しないとありますが)。いきものの生命力をあなどってはならないのです。水盤は麩屋町二条下ルのギャラリー「結」で購った紺野乃芙子作。テーブルセンターは龍村美術織物製「早雲寺文台裂」。

この点、春に出回るスイートピーやフリージアは、そのなんともいえないさわやかな香りが魅力。また長く持ちます。ライラックは活けたことがありませんが、この香も甘くていいですね。ヨーロッパでは春を告げる花として、かのピアニスト、ラフマニノフ(1873-1943)はこのライラックが大すきだったようです。それを知って聴くと、甘美な憂愁に包まれたピアノコンチェルト2番や3番からは、ライラックの香がただよってくる感じがします。

最近、気に入っているのは、青い花、デルフィニウムと、香たかき百合の花。百合は弊院の玄関に出しておくと、エレベータの扉が開くその瞬間から芳香につつまれて、うっとりします。

青い花は固より希少ですし、古くから美人の形容に「立てば芍薬、座れば牡丹、あゆむ姿は百合の花」と言いますが、このまとめは実に秀逸といわざるを得ないなあと思うきょうこの頃です。デルフィニウムと百合、双方もちもいいです。目と鼻が喜びます。

これからも常に花卉と芳香を絶やさない心地よいクリニックでありつづけたいと思います。

 

 

 

 

 

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