病気の説明・各論2
心因反応
人生、山あり谷あり、艱難、汝を玉とす…とは限らないのが、現実です。苦難に接して挫けてしまいそうになることもあります。現代社会で最も多い苦難は、パワーハラスメントに代表される職場いじめです。いじめを受けて弱っている人に対して、いかなる手助けをしていくか、これについては、適応障害(自律神経失調症)の項目で、別に論じます。
一般的に、何かつらいことが起きた場合に、心身に不調が出るであろうことは容易に理解できると思います。
A(ストレス源)→ B(心身の不調)
という反応が起きているわけです。これを「心因反応」と従来、総称しています。上記の適応障害(自律神経失調症)も、その一部ということです。
しかし、人生の苦難に接して、人によっては、一時的に、周囲も心配させるような、奇妙な言動をとる場合もありえるだろうことも、また容易に想像できることと思います。そういうものを実際には「心因反応」と呼んでいます。
通常よくみる「適応障害(自律神経失調症)」のレベルは超えているが、経過から見て、精神病に達しているとはいえないものです。
おかしな言動が一時的におさまらず、長引けば、統合失調症など、精神病がつよく疑われますが、その点はあいまいにしておく趣旨で「心因反応」という言葉は、昔よく使われていました。しかし、がんらい、「心因反応」の語は、精神病(疾患)とは区別されるという趣旨のものです。
心因反応の具体例としては次のようなものがあります。
- 幼少期から打ち込んできたスポーツ選手人生を諦めなければならない時期にぶち当って、これまでお世話になってきた人びとや新しい職場の人びとの思惑を邪推し、考えがまとまらず、混乱してしまった。(敏感関係妄想反応)
- 大学の自治会活動でがんばりすぎ、疲弊していたが、折しも手痛い失恋も重なったことから、「俺、だいじょうぶか、俺、だいじょうぶか」とうわごとのように繰り返すようになり、仲間を心配させた。1週間の休養で回復。(抑うつ反応)
- 知合いが若くしてがんで亡くなったと聞いてびっくりし、自分まで怖くなり、めまい、過呼吸などの不安症状が出るようになった。(驚愕反応)
- 出勤したら脱力転倒。入院時は会話も歩行も可能だったが、その時の記憶がない。その後も出社恐怖から出勤できなかったり、めまいや転倒をおこしたりしていたが、徐々に立ち直った。(ヒステリー性麻痺。反応性健忘)
- 商売や人間関係でゆきづまり、精神的に追い詰められて何かあるとふらふらと倒れこんでしまう。(ヒステリー性麻痺) 視野狭窄発作が起きた。(ヒステリー反応)
- じぶんのメンタルを強くしようと思い立って、暗示療法をうけてから「幻聴」と対話するように。自宅療養と投薬ですみやかに改善。(感応反応)
- 舞台上の失態でお師匠さんの機嫌を損ねたと混乱している。(驚愕反応)
- じぶんの能力の限界を超えた仕事を任されて、努力を重ねてきたが、はたせず呆然自失、困惑状態。不安焦燥もまじえている。休職と投薬で2か月後にはすっかり回復。(抑うつ反応)
上記症例のいづれをとっても、患者さんは、じぶんの弱点を突かれるような体験をし、そのストレスをうまくじぶんで「消化できない」ために、アップアップしていた印象があります。しかしなんとか持ちこたえたところに健康性が示されています。休養と必要に応じての投薬で改善をみました。
参考文献
・針間博彦、古茶大樹「心因反応、異常体験反応」精神医学53巻1224-7頁2011年)