…パナマは健さんのものだらう。
この結びで終る『夢十夜』(明治41年)といふ小説をご存知の方もあるかと思ひますが、漱石は、『吾輩は猫である』(明治38-9年)でもらつた原稿料十五円(当時)を全額はたいてパナマ帽を購つたとか。漱石は美学趣味が豊かにあつた人なので、おしやれであつたと見えます。
暑い夏に、パナマ帽は、見た目すずしく、被る人のみならず、それをながめる人も涼しくすること、ゆかたのごとし。
私もその昔銀座のトラヤといふ老舗帽子店で、トラヤ特製といふパナマ帽を買ひました。銀座をきどつた店員の憎体な態度を今にわすれません。あれから幾星霜。
京都には三条商店街に創業1919年(大正8年)といふ百年を超えた老舗帽子店があり、その名をトミヤ帽子店。
ここはボルサリーノの正規取扱店なのですね。
先日、むすことふたり連れだつて、でかけました。
店内には所狭しと、ボルサリーノのパナマハットがいつぱい!
腰のまがつた老店主が、「ボクにはこれでどうやろ」と、むすこの頭にボルサリーノを置いた瞬間、これ以上は考へられない、と私と老店主が思はず目を合せてうなつたほど、似合つてをりました。
紳士たるもの、夏はパナマ帽。
そんな父からする無言の教へがむすこに届くといいが、と思つて出かけたのですが、周囲があまりに褒めるので、本人も痛くご満悦。
今年の夏はこれで熱中症を避けつつ、おやこで算数の勉強にはげみます。
少年や 目元すゞしき 夏帽子 恵沢
少年や 学成難き 夏帽子 明以
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