病気の説明

病気の説明・各論5-18

クレプトマニア(19)

窃盗症「クレプトマニア」について(続き)

10)「窃盗症」の診断と治療(小医なりのもの)(前回の続き)

除外診断(以下、矯正不能)

(1)常習窃盗犯であること。窃盗症か只の泥棒かは、なんとなく伝わる(各論5-9クレプトマニア(10)7)に一端を既述)

註)ただし、再犯の予防こそが大目的なので、じつは、たとえ常習窃盗犯であっても真摯にナントカしたいと思う人であれば「クレプトマニア」としても構わない。ただ、おのづと、常習窃盗犯の人の場合は、「やっぱり、どう考えても、この人は、ただのどろぼうやナ」と幻滅させられる言動が多い(例、「私は物欲が強い。特に食物。しかし貧乏人だからあまりいい物はふだん食べられない。だからスーパーでは一番高い牛肉を狙って偸む。…家の近くに新品の自転車が一台放置されていた。最初は持主が取りにくるのだろうと思っていた。しかしいつ迄たっても、そのままであった。ならば自分のものにしていいだろうと判断して乗っていたら、自転車窃盗と呼ばれて捕まった」。…そのままやないかい! 自験例)。

(2)本人に反省のきもちがないこと:根性の叩き直しまでする気力、義理は小医にはない

(3)自閉症特性があること。行為の「社会的意味」がわからない人に、それを一から教えることはできない。

例、一流大学の学生が値引シールを張ってレジを通った行為。(自験例1件) 詐欺罪に該当するのだろうが、「一流大学の学生がそんなことをして世の中通ると思うのか」という「社会からみたじぶん」への評価像がそもそも頭の中にない。京都の某公立精神病院は、「だって、お金に困ってたんだよね~」とだけ学生に言って診察終了だったという。私は子の養育に小さい時から苦労してきた母からも話を聞いて、時間と労力かけて理解を深めたが、実際の対処法を考えると、上記の対応が一番賢かったと言える。

ただし再犯をくりかえす可能性は非常に高い。しかし、彼らに内省というものは期待できないので(文献7)、最初からムダとわかっている努力は、費やす気になれない。

ちなみに刑法では親族相盗例を甘やかしているようだが、これら自閉症の類似症例では親族相盗は幼少期より、必発である。彼らには「社会」の出発点である「家庭」においてすら「共同生活」という概念が最初から存在していないためである。法律学においても「生物学的」人間理解(人間は均一にできていない)の導入は不可避である。

註)しかし、自閉症特性が薄くあり、それゆえ説明能力が不十分なために(前述各論5-15 クレプトマニア(16)6))、そして相談機関にかかる機会もなかったために、司法手続で機械的に累犯扱いとなってしまったかわいそうな人びとも無数にあるだろう(自験例2件。1件は自殺した!)。この「罪」は、いったい誰のせいなのか? 裁判官、検察官、弁護士、すべての法曹がグルになって捏造した「犯罪」ではないのか? 昔、山本譲司という実刑を受けた代議士がこの問題を提起しているが、わたくしも、じぶんの仕事のかかわりで得た経験からは、この指摘は事実だと信じざるをえない。 かわいそうだとわたくしがみなす限り、わたくしができる限りでめんどうはみている。

治療方針

(1)じぶんの生活史をふりかえって、内省をふかめる

(2)生活ストレスをへらすようこころがける なにが自分にとってストレスとなっているか、正直によく考えてみる

(3)通院を定期的につづける。自己主張できない人なので、人と率直に話す(強い人だけが率直になれる。弱い人は率直になれない:ラ・ロシュフコー)ことは、こころの整理につながる。反省の機会を定期的にあたえる効能がある。医者は治療薬がないからと弱気を起こさない。「会話のもつ力」に信頼を置く。医者自身、じぶんを信じなければならない

(4)買物禁止:衝動抑止の観点から、これが絶対だと吉田精次氏は言うが(文献3, p.104)、現実的(実行可能)か? わたくしも「嗜癖」となっている部分について、無視したり、楽観しているわけではないから、じつに悩ましい問題である。ふらりと目的なくスーパーに入って何気なく物を手に取ると、経験上これは、万引必発なので、そういうことだけは絶対にするな、急用ができても、店に入るな、そういう時こそ万引しやすいから、とさまざま細かいことを言いつけてある

…クレプトマニアについて、一般的にいへることは、ほゞすべて記述できたと思ふ。最前線の脳研究などのことは知らぬ。しかし統合失調症にせよ、躁鬱病にせよ、強迫神経症にせよ、科学的研究は長期の間、悉く飛躍的前進が阻まれてゐる現在、クレプトマニアに限つてそれが可能とは到底思はれないから、そんな努力に期待するのは愚の骨頂であらう。それよりも、もつと泥臭い再犯防止の手立てがないものか模索の努力を続けるほうが、ヨリ現実的であらう。下記の文献に多大なる教示を賜つたことに改めて感謝します。

文献

 竹村道夫・吉岡隆編『窃盗症 その理解と支援』(中央法規2018年)

註)内容雑多で散漫な編集。全く感心できない本。おまけにすこし重い。要は赤城高原ホスピタルの宣伝本。

 下坂幸三『拒食と過食の心理』(岩波書店、1999年)

註)下坂幸三(1929-2006)は、日本の殆どの精神科医が精神分裂病(統合失調症)とうつ病の治療に注力していた時代に、治療難度のさらに高い摂食障害の診療に生涯携わって来た稀有の医師である。医学以外にもさまざまなことに造詣深く、敬意を表さずにはいられない。下坂はフロイト派の医師だが、本書は臨床の智慧がこれでもかこれでもかとちりばめられている名著である。

 吉田精次『万引がやめられない』(金剛出版、2020年)

註)吉田精次氏は、徳島県の臨床医。わたくしは吉田先生と面識はないが、臨床上の感覚において甚だ共有しているものを感じている。

 吉永千恵子「クレプトマニア」精神科治療学33巻8号923-8頁2018年

註)ドライな視点で公平に俯瞰している点が評価できる。

 古茶大樹「クレプトマニアの責任能力」日本精神神経学会雑誌122巻11号822-31頁2020年

註)わたくしは、二回だけ古茶先生と面識があるが、とてもフランクな方で、普遍的な精神医学を志向する上で、認識を一にしている。この論文については、なんぴとたりとも、ケチをつけることができない。

 京橋メンタルクリニック「窃盗症とは」

https://kmc-ynb8.com/free/kleptmania

註)竹村道夫医師じしん、じぶんのみた症例2100例中DSM-5を満たすものはたった1例であったと白状している。

 衣笠隆幸ほか「重ね着症候群とスキゾイドパーソナリティ障害:重ね着症候群の概念と診断について」日本精神神経学会雑誌109巻1号36-44頁2007年

註)自閉症特性のあるすべての者とは限らないが、常識的に期待できるであろう相互理解が全く深まらない一群が存在することを明言した画期的論文、とわたくしは考えている。おそらく、一部のヒューマンな精神科医には気に入らない内容だろうが、臨床的、科学的には事実だから、この指摘から目をそらすことはできない。ただし、相互理解がある程度進む群も、むろんある。

 斉藤章佳『万引き依存症』(イースト・プレス、2018年)

註)東京にある大森榎本クリニック(依存症専門外来)で働く精神保健福祉士(PSW)が著した本。コンサイスとはいえないが、クレプトマニアの論点について満遍なく記載してある良本。

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