病気の説明・各論5-9
クレプトマニア(10)
情状酌量の余地(続き)
もちろん、わたくしは、ただのカウンセリングなんぞを行っていたわけではない。日本には「ああ、そう。ふむふむ、それで。へえ~」とクランケの話を「聞くだけ」のカウンセリング ロジャース法という ばかりしかない。しかし、こんなやりかたは、窃盗症には全く無益、時間のムダだった。そうわたくしに伝えて来た自験例3件以上あり。犯行が起きるメカニズム、具体的予防法を伝え、ストレス源やじぶんのこころの動きなどの内省、自覚を促す必要がある。弊院に来て「初めてじぶんをここまで見つめ直すことができました」というクランケは多い。誇示ではない。事実である。「なぜ?」「どうして?」と極悪警官並の尋問カウンセリングをしているうちに、わたくしにも、窃盗症の人の「輪郭」がある程度見えてきました。医者の診断は各論5-4クレプトマニア(5)に既述したようにパタン認識に基づくので、それが見えてこない限り、診断を行っているとは言えません。
こうして8年9カ月余も過ぎて、症例も50を超え、ある程度、医者のかかわりで再犯を予防することも、もしかしたら可能なのかも知れないと、わたくしはばくぜんと思えるようになりました。但し、ここに至るまでに、わたくしは疲れ果てましたがね。
7)すべての病気と同様、みなは救えません。医療の基本はトリアージ(選別)です。助けられる人だけを助ける。助けられない人は容赦なく見捨てます。医療資源(リソース)は無限ではないからです。
じぶんに反省のある人は、再犯をしない期間が長くつづく可能性が高いと思います。こういう人は、わたくしは、少しでも助力しようかという気になります。
反省をしていない人の再犯率は高いと思います。これはどうしようもありませんが、こういう人がどういう司法的理由でか知りませんが、軽い処分で済んでいたりします。こういう人までわたくしは面倒をみる道義心、気力・体力はもち合せていません。
反省していない奴は、そのふてぶてしい態度で明らかにそうとわかります。じぶんに都合のいい口吻をもらすばかりです。いっぽう、口だけの反省を軽々しく言う人、「ハイハイ」「ソウソウ」とむやみに首を縦に振って小医にへつらう人も、じゅうぶんな反省はしていないですね。ほんとうに反省すれば、出てくる言葉、反応は一つひとつ重くなるはずですから。ただの常習窃盗犯か、クレプトマニアか、その区別は、たとえばですが、こんな単純な観察ひとつだけでもわかります。
他にも、クレプトマニアの人は、スーパーの監視カメラがどこに設置されてあるかなど気にしていないので、まぬけに全挙動を映されていますが、常習窃盗犯はカメラの位置や店内における「死角」に熟知している、というような簡単な鑑別点があります。
いちばん大事な区別は、再犯防止に向かえる人かどうかです。それができそうな人なら「病名」など、最早どうでもいいことです。

